徳川頼宣は、紀州に入る時に港から上陸した。
そこには沢山の麦がむしろの上に干してあった。
頼宣は麦を踏まないように注意して渡ったので民は、
「あの殿様は、よいお方だ。」
と喜び、頼宣は満更でもなかった。
が、付家老の水野重良は気にいらない様子である。
その後、重良は出迎えの責任者を罰してしまった。
不思議に思った頼宣は、重良にわけを問いただした。
「あやつは麦をむしろに干した不届き者です。だから罰しました。」
「俺が気を使って渡ったから領民たちは喜んでたぞ。」
「領民への慈悲とはあんなセコい行動ではなく、もっと大きいのです。
麦を避けるなんてみみっちい事です。」
頼宣の機嫌はすっかり悪くなってしまった。
見かねた重良の同僚が重良に忠告した。
「皆が頼宣様を褒めているのに、なんだあの言い草は。」
「いいや、補佐する人間は主に何をさせるかだけではなく、
何をさせないかも考えなくてはいけない。
今回の様な事はあってはならん。
麦を片付けなかった責任者は怠慢だったのだ。」
やがて、この言葉は頼宣の知るところとなった。
「水野の言葉に間違いはない。
大名ならばやっていい事と悪い事がある。
俺の気持ちが浮ついていたのがいけなかったんだ。」
頼宣はそのように思い直したのであった。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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