徳川頼宣は、早くから大名の地位を家康より授かったが、
それとともに「天下の名物」と呼ばれる茶入を譲られていた。
ある日、頼宣の蔵を預かる役人が蔵の道具の虫干しをしていると、
家老安藤帯刀の息子・彦四郎重能がやって来て言った。
「ご重宝の茶入を拝見したい。コッソリ見せてはくれぬか?」
彦四郎は日頃から酒癖が悪く、この日もプンプンと酒臭い息を吐いていたので、
役人は断ったが、彦四郎は聞かない。
「そこまで言うなら、どうぞ蔵に入られよ。ただし、他言は無用ぞ。」
「分かっておるわ!」
二日酔いで薄暗い蔵に入った彦四郎は足元が定まらず、近くの箱の上に倒れこんだ。
驚いて箱を開けて見ると、中身は件の茶入で、壊れていた。
さすがに黙っている訳にも行かず、彦四郎は父・帯刀に、斯くの如しと申し出た。
「これは、殿に申し上げねばなるまい。場合によっては、わしも責任を取る。
お前も覚悟を決めておけ。」
「・・・。」
報告を受けた頼宣は、帯刀に言った。
「して、その破片はあるか?」
「破片は、そのまま置いてあります。」
「ならば、漆でも使って継いでおけ。」
「彦四郎には、いかなるお咎めを仰せつけになりますか?」
頼宣は笑って答えた。
「茶入は『天下の名物なり』、と父上に授かった品ではあるが、戦場で弓鉄砲も撃たず、
槍刀も使えず、先頭に押し立てて『天下の名物なり』と呼ばわったとて、
敵が恐れ入るわけもなし。彦四郎は酒癖は悪いが、ひとかどの者である。捨て置け。」
「ははーッ! 有難き仰せ!」
「・・・。」
その後、彦四郎は人が変わったように職務に打ち込むようになり、口癖が出来た。
「武士には『伊達』というものがあるが、存じたる者は少ない。
そして、伊達の最たるものは、主君のために死ぬることよ。」
その言葉通り、大坂夏の陣で彦四郎は一番槍を果たして戦死した。
有言実行を遂げた彦四郎を賞賛せぬものは無かったが、その死は父親を悲しませた。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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