安藤直次の子・直治が、成瀬正成に、所持していた刀を求められた。
「なかなか見事な刀をお持ちではないか。良ければ、頂戴できないだろうか?」
「ああ、これは紀州の鍛冶師が鍛えたものです。
差し上げるので、お国の者に見せて参考にして下され。」
その後しばらくして、正成は直治にもらった刀の切れ味について語った。
「いや、尾張に帰り、重罪人で試し斬りをさせてみましたが、うまく斬れませんでした。
形は良いのに、もったいない!
紀州の者に、なお精進するよう、お伝え願いたい。」
「なに、お安い御用です、必ず伝えましょう。
しかし紀州で使えば快く斬れるのに、妙な話ですなあ。」
直治が答えた。
正成は、これに笑って返した。
「なーに、尾張者は骨があり硬いゆえ、尋常の刀では斬れ申さず。
紀州の鍛冶師の腕が悪いわけではござらぬ。その辺りもお伝え下されよ。」
直治も意地になって、
「いやいや! ナマクラでも紀州者はよーく斬りまする。」
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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