島原の陣の二月中に、松平信綱は、連れてきた江州甲賀の者を呼んで、
「これまで諸将は、敵城の様子を探らせようと忍びの者を遣わしたが、
敵城の守衛は堅固で忍びの者が城中へ忍び入ることができない。
御身らは忍び入って、様子を見届けて来てくれ。」
と言った。
甲賀の者たちはかねがね内々の願いの筋でもあれば功を立てようと思っており、
「畏まり候」
と速やかに承知し、仲間の中から菅川七郎兵衛、望月与左衛門、
夏目角助、吉田五兵衛、鳥飼勘右衛門ら五人の者が暗夜に紛れて潜入した。
塀下までは忍び寄ったものの、守衛は堅く、
城中へいまだ入らずに見合わせていたところ、
城中より猿火を渡して塀下廻りを調べたので、その火を引き入れる時に、
引き続いて菅川と望月の両人が城中へ紛れ入った。
あとの三人の者は入り遅れて塀下で躊躇していた。
さて、忍び入った両人のうち望月は塀を越えて城内へ入ったところ、
塀裏の落とし穴へ落ちた。
菅川は引き上げようとするが、穴が深いので上げられない。
とやかくする間に城兵たちは気付いたのか、
「寄手が忍び入ったぞ、討ち取れ!」
と立ち騒いだけれども暗夜なので見分けがつかず、
その間に菅川はどうにか望月を引き上げ、
闇夜に紛れて城内のあちらこちらを忍び廻り様子を見届け、
やがて塀を越して城外へ飛び出た。
この両人は甲賀忍び組の中でも、取り分けて忍びの名人であるということだ。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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