松平信綱は、領地の川越野火止の灌水計画を実行に移した。
三千両もの費用がかかる予定だったが、
信綱は、
「土地のためになるなら、これもご奉公だ。」
と考えた。
計画の発案者は野火止代官の安松金右衛門。
まず多摩川から十六里ほどの溝を掘り、新川岸という所までひいたが、
水は流れないまま一年が過ぎた。
伊豆、「開発はどうなっておる。」
安松、「はい、まだ水は流れません。しかし必ず流れます」
力強く答える安松だったが、二年目になっても水は流れなかった。
伊豆、「水はまだ流れぬそうだな、金右衛門?」
安松、「必ず流れるはずです。というのもあの一帯は乾燥して風も強いのですが、
今年は何故か塵や埃が少なく、作物もよく育ちました。
こんな珍しい事が起こるのは多摩川の水が地下一帯を湿らせているのです。
必ず水は流れます」
しかし三年目になっても水は流れない。呼び出された安松は昨年と同じ説明をした。
伊豆、「それは去年も聞いたぞ。そちは土地の高低を分かっておるのか?
川の面より開拓地の方が高いから水が流れないのではないのか?違うのか?」
安松、「それがしにすべてお任せください。必ず水は流れます。」
金右衛門は信綱に問い詰められてもどうじる事なく、自信満々であった。
その秋に大雨が降った。このため溝には水が通じて開拓地を潤した。
元々、二百石だった土地は一気に二千石にまでなり、住民たちは歓喜した。
伊豆、「いやあ、この間は無闇に責めたりしてすまなかったなあ。
責められても自信を貫き通すなんて、そちはたいしたものだ!」
そう言って、信綱は金右衛門の俸禄を倍にしてやったのだという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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