徳川家光が、食事を取っていた時のこと、ふと知恵伊豆こと松平信綱を呼んで、
食事の中にあったあつものを分けて、これを食べて感想を話すよう言った。
信綱これを頂き味を見、しばらく案じてから、
「これは古くなって味の悪くなったものを、あつものにしてしまったようです。」
と、申し上げた。
「これは担当の奉行の失態であるな。応分の処分をするように。」
と家光は命じ、信綱はかしこまって退出した。
翌日の夜、家光は重ねて信綱を召しだし、
昨日のこと、どのように処分したかを尋ねた。
信綱は謹んで、
「昨日のあつものですが、あれは料理をした者が、
少々うっかりして古く味の悪くなったものを御膳に出してしまった、
というだけのことであり、担当の奉行にはよくよく注意しておきました。
何故そう解るかといえば、私は昨日あのあつものを頂いてから今まで、
湯水の他に何も口に入れませんでした。
これは、もしや毒でも入れたか、と案じたためですが、
現在にいたるまで体調は些かも変わることはありません。
しかればこれは、ただうっかりと不注意なままに、
あのように味の変わったものを使ってしまった、と言うことです。
それ故その処分も、相応のものと致しました。」
家光これを聞き、信綱の所為実にかなえりと深く思し召した、とのことである。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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