江戸南町奉行、神尾備前守元勝が、
上司である老中・松平信綱の屋敷を訪ねた時に、こんな事を聞いた。
「罪人に対して、取調べに拷問を行うべきでしょうか?」
しかし信綱、これに直接答えようとせず、
「いよいよ詮議を煮詰めるように。」
とだけ言った。
このやりとりを聞いていた他の人が奇妙に思い、別の機会に信綱に問いただした。
「備前守殿が拷問の良し悪しを聞いてきたのに、
『いよいよ詮議を煮詰めるように』とだけおっしゃったことは、
どうにも心得難いものがあります。
あれは一体どういう事なのでしょうか?」
信綱、これに、
「取調べのさい、詮議が不十分で吟味が行き届かないからこそ、
拷問などに頼ることになるのです。
よく詮議をしてその案件の全てがはっきりとすれば、
どうして拷問などを行う必要があるでしょうか?
すなわち、拷問を行うのは奉行に才能が無く、
詮議が不十分だと告白しているようなものです。
拷問とは、奉行の恥というべきです!」
「では否と答えておけば…。」
「いいえ、私は備前守が奉行所で拷問を行っているのかどうかを知りません。
仮に拷問を行っているのであれば、
あの時、多くの同席の人がいる前で、彼に恥をかかせる事になってしまいます。
そのような事があってはならないと考え、あのように答えたのです。」
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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