武蔵国入間郡の箕和田と云う所は鯉の産地であり、
その地の町人たちは四百領の運上金を幕府に収めて、
鯉を捕り、それを江戸に送って商売をしていた。
ある時、老中の知恵伊豆こと松平信綱に、
箕和田の、鯉を獲っている者たちとは別の町人の一団が、
六百両の運上金を差し出しますので、
自分たちに鯉を捕る権利を与えてほしい、と申し出た。
幕府にとって今までよりも運上金が二百両多く収まることになるので、
その一団の者たちは、必ず許可になるものと考えていた。
ところが信綱は、
「よく考えてみよ。今まで四百量だった運上金を、
わざわざ二百両増やして六百両にしてくれという者があるか。
それは、今までよりも鯉の値段を二百両上げてくれ、というのと同じ事だ。
その二百両は結局、江戸の武家や町人に売る鯉の値段を吊り上げることによって、
生み出そうとするであろう。
それは江戸の住人に難儀を与えることになる。
逆に、今までの運上金四百領を、二百両にしてくれと申し出たのなら、
許すことにしたであろうに。
幕府が二百両の運上金を多くもらったからといって、
その分、江戸の住人が高値に苦しまなければならないというのでは、
不義が生まれ、訴訟が増えるばかりである。」
そう言って、前々から四百両の運上金を収めている町人たちに、
鯉を捕る権利をそのまま与えたという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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