幕府の要人たちは、坂崎事件の対応を協議していた。
結論は早期鎮圧ということになり、坂崎の家老に書面を送ることになった。
内容は、
「あなたの主君の罪は許されないが、
あなたが主君に薦めて自害させたならば出羽守の嫡男が家督を継ぎ、
坂崎家が存続することを約束する。」
というようなものだった。
本多正純は協議していた人たちに、
「家老がその要求どうりにしたら、本当に坂崎家を存続させるのか。」
と聞いた。
この問いに要人たちは、
「この書面は鎮圧のための謀略です。謀反人の家を存続させるわけがない。」
と答えた。
正純は書面の内容が偽りと知ると、
「謀略なら書面を出すのはよくない。
出羽守の不忠を断罪するために、その家老に不忠な行為をさせるようなことを、
天下の政道を守る幕府がやってはならない。
天下の政道は信に基づかなければならないのだ。
この事件を鎮圧するためにはすぐに兵を派遣して誅罰すべきだ。
家老に不忠を行わせた上に、騙すようなことをすれば、
天下の風儀は乱れるであろう。」
と言って要人たちの案に反対した。
要人たちは、
「ですが正純殿、既に議論の上、結論は出ております。」
と言ったのだが、正純は、
「そんな結論に賛成できるか。私は署名しないぞ。」
と言って署名しなかったという。
その後、このやり取りを知った柳生宗矩は、
「正純は批判されることをいろいろやったが、この一言だけは天下の名言である。」
と言って感心したという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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