土井大炊頭利勝殿へ、蒲生下野守殿(忠郷)より子細あって、
安達内匠という者が使いに遣わされた。
大炊頭殿がお会いになって用事を申されたところ、
内匠は暫く黙して手を突いていたので、大炊頭殿は、
「腹痛などではないだろうか。」
と案じなさった。
すると、内匠は、
「口上を忘却いたしましので、恐れ入りますが、
御次の間で思案いたして申し上げたいのです。」
との旨を述べたため、
大炊頭殿は、
「それならばゆるゆると思案しなさい。」
と申された。
やや暫くして、
内匠は御目にかかり、口上の首尾を案じ出して申し上げたということである。
大炊頭殿は、
「人多しといえども内匠の如き使いはおるまい。
ひたすら当座の首尾に合わせてしまって、忘れたことも押し隠すものである。
嘘偽りの無いことだ。」
と、甚だ感心なさり、
下野侯に、
「褒美なさいませ。」
と申されたということである。
大炊頭殿の寛仁により、
使いの不首尾もよく取り成して申されたことは、有り難きことである。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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