父親の影響か、徳川秀忠も、かなりの健康マニアであったようだ。
ただ、父親と違うのは、家康は案外、他人の嗜好には立ち入らない人間だったが、
秀忠はそうではない。
自分が良いと思うことは、満面の善意で、人にも勧める人間である。
そんなわけで江戸城内に、こんな命令が出された。
『喫煙厳禁!』
当時既にタバコは、世の中にかなり広まっていた。
当然徳川家中にも、である。
ニコチン中毒者がこういう時考える事。
それは禁煙!
ではない。
当然、「隠れて吸う。」である。
そんなわけで江戸城内の御番衆の湯飲み所は、
いつのまにやら秘密の喫煙室と化していた。
さて、ニコチン患者達が今日も安らかにタバコを吸っていると、
そこにひょっこり顔を出した人間がいた。
「よっ? なにやってんの?」
老中、土井利勝であった。
一同驚愕、大慌てで各々とっさにタバコ道具を隠す。
なかにはキセルでやけどする人間までいる有様であった。
しかし利勝騒がず、部屋の中に着座し、
「そなた達が今吸ってたもの、私にも振舞ってくだされ。」
などと言い出した。
一同すっかり困り果てたが、何度も所望するのでしかたなく、
袖の中やひょうたんに隠したタバコやキセルを出し、利勝に差し出した。
彼はこれを二三服吸うと、
「思いもかけず珍しいものを頂いた。ありがとう!」
そういって帰ろうとした、と、そこで振り向き、
「今日のことは私も一緒だから当然誰にも言わないけど、
私に見つかるくらいだからここは危ないぞ。
上様がお嫌いなものなんだから、五月蝿いのに見つからないうちに、な。」
そこでこれ以降、湯飲み所での喫煙はピタリと無くなった、とのことである。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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