将軍・秀忠の時代のこと。
都から勅使の公家達が江戸にやって来た。
彼らの接待を勤めたのが、大名の山崎家治だった。
接待が終わると勘定方が支出の明細を帳簿にした。
帳簿に接待役の大名が捺印するのが先例であったので、
勘定係が家治にそうするようにお願いした。
が、家治は怒りだして、
「接待役はお上の命によるものだから、
幕府側の支出が記録された帳簿に私の印は押せない。
例えご老中の仰せでも従うつもりはない!」
と言った。
家治は頑固者で、自分の主張を曲げず、
幕府の勘定係は困ってしまった。
怒りの収まらない家治は老中の土井利勝の屋敷に上がり込んできた。
「先程、こういうことがあったが、例えご上意だとしても私は承服できません!」
と言って家治は利勝に食ってかかった。
周りの者達はどうなるのだろうとハラハラしていたが、利勝は冷静に、
「確かにあなたのおっしゃる通りですね。
ご上意だとしても印を押したくないというお気持ちはもっともです。
でしたら、あなたのご家来に捺印させてはいかがですか。」
と言った。
家治はこの答えに満足したようで、
「そうです、その通りです! どうして私の印が押せましょうや!」
と言った。
すると利勝は、
「ご家来が捺印されたうえで、大事なご家来がなされたことに誤りがないことの証に、
あなたが捺印されるのが適当だと考えます。」
と続けた。
この発言に家治怒るかと思えば、
「いやはや、全くあなたのおっしゃる通りです!
帳簿の終わりに私が捺印しましょう。」
とあっさり了解してしまった。
こうして頑固者の家治は丸め込まれたので、勘定方は胸を撫でおろしたという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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