山口重政は、大久保忠隣の事に連座して改易され蟄居していたのだが、
大坂冬の役の前に、土井利勝へ書を贈り、
「日頃、御厚恩を受けてはいますが、現在は御勘当の身なので報い奉る期がありません。
いま罪を蒙っていることは天下の人の知る所ですから、偽って大坂へ籠もったとしても、
城中に疑う者はおりますまい。
されば間隙を窺って秀頼公を刺殺し、日頃の御厚恩を報い奉れば、
兵を労さずして天下は平穏となるでしょう。
そこで妻子を留めて人質にするつもりです。」
と言いよこした。
これに利勝は返書して、
「私は以前から貴所が精忠にして私のないことを知っています。
しかりといえども、貴所が初めより、
将軍家の親愛を得られていたことを知らない者はいません。
今、わずかな罪を蒙られているとしても、余程の事があるわけではないのですから、
人がどうして疑わないことでしょうか。
その時には貴所の志は成し遂げられません。
もしまた、城中が信用して貴所の志が遂げられたとすれば、
世間は必ず将軍家がさせなさったとみなすでしょう。
その時には万世に婿を害したとの謗りを受けなさることでしょう。
絶対に人臣の為すべきことではありません。」
と言いよこした。
重政は書を受け、涙を流して、この事を止めたという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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