由比正雪らの幕府転覆の陰謀が露見した。
いわゆる<慶安の乱>であるが、
駿府で自殺した由比正雪の遺品のなかから、
紀伊大納言頼宣の判物(はんもつ)が出て大騒ぎとなった。
<判物>はハンモノともいい、
将軍とか大名から目下の者に宛てた文書で花押のあるものをいう。
つまり正雪らの陰謀に御三家の紀伊頼宣も加担していた、
という疑惑がもたれたのである。
このとき忠勝は単身紀伊家におもむき、頼宣に対面してその判物を見せ、
「真偽いかが。」
と、頼宣の膝元に詰め寄った。
うっかりするて紀伊家存亡に関わる問題である。
したがって忠勝も命がけである。
するとすかさず豪気な頼宣は、
「一向に覚えはないぞ。」
と、平然と答えた。
そこで忠勝は顔を緩め、
「それは重畳。このような紛らわしい反古は焼き捨てるにしかず。」
といって、即座にその判物を傍らの大火鉢に投じて、証拠の品を消滅せしめた。
そして、
「これからはお身近の人々にもご油断なきように。」
と忠勝が言い、
「さよう。近習の者どもにも心を配るようにいたそう。」
と頼宣が答えた時、一人の小姓がつと立ち上がって縁側に出、
腹に脇差を突き立てて自裁した。
この小姓に罪があるわけではなかった。
しかし自分が罪を犯した形にして主君の急場を救おうとしたものであった。
「さてさて大納言様はよきご家来をお持ちでござる。」
といって、忠勝はそのまま帰って来た。
紀伊家は取潰しを免れた。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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