三代将軍・家光のころは、まだ戦国の遺風があちこちに残っていた。
食膳を預かる者にしても、まだまだ武骨であった。
家光は、隅田川を渡って、向島に鷹狩りに来た。
その日は、あいにく風が強くて、獲物がなく、家光は不機嫌だった。
木母寺で食事をとることになり、膳が出た。
家光が汁物をすすったところ、砂が入っていた。
「台所頭に、腹を切らせよ。」
家光は、即刻、近侍の内田正信に命じた。
このあたりの処断は、戦国時代の気風濃厚である。
これを伝えられた台所頭の鈴木喜左衛門は、すぐにまかり出ると、
「御膳に、砂が入っていたわけではございませぬ。
今日のような風の強い日に、上様が御口をすすがずに召されましたから、
砂をかまれたのでしょう。
口をすすがれてのち、砂をかまれましたのならば、首をはねられるなり、
腹を切るなり仰せに従いまする。」
喜左衛門の言うとおりであった。
家光は、彼の申し開きを賞して、二百石を加増している。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
こちらもよろしく
ごきげんよう!