天下を治める者に、我意はならぬものだ☆ | げむおた街道をゆく

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酒井雅楽頭忠世は、徳川家光のもとで大老を務め、補導第一の良臣であった。
彼はいつも正言を申すため、まだ歳若き家光は煩わしく思い、

忠世に何か言われた時は、いつも機嫌が悪かった。

ある日、家光が大手前を通った時、

「あの家は誰の家か。」

と尋ねると、

「雅楽頭の家で御座います。」と答えられた。
そのとたん、家光は顔をしかめた。

それほど酒井忠世を嫌っていたのである。

ある年の事、八朔の賀に御三家はじめ諸大名江戸城に登城した時、

家光は前夜より二の丸に在って、未だ還御無かった。
 

酒井忠世は二の丸に渡り、

「拝賀の者は皆集まりました。早くお還りあって賀儀を受けられますように。」
との言葉を伝えるよう家光の御傍の者達に言ったが、

彼らは家光の事を憚って、誰も取り次ごうとしなかった。

そのため忠世は直接家光の御前に出て、その旨を言い聞かせた。

この事に家光は激怒した。
「忠世、取次なしに私の前に出るのは推参である! 必ず咎めを与える!」

「それがしの事は後日、どのようなお咎めも蒙りましょう。

今朝はとにかくお還りください。」
これに家光も拒否できず、やがて本丸へと還り諸大名の拝謁を受けた。
 

その後、何の沙汰もなく数日が過ぎたが、忠世は西の丸の大御所秀忠の元を訪れ、
「私は性質愚鈍であるのみならず、歳も取り、

また殊に御前もよろしからねば、老職をお許しありますように。」
そう、大老職の辞任を申し出、また八朔の日のことも申し上げた。

 

秀忠はこれに何も言わなかった。

間もなく、家光が西の丸の秀忠のもとに渡ることがあり、忠世も召され左右に侍った。
そこで秀忠が、
「忠世は年老いて、さぞ本丸での職務にも労しているだろう。今日は殊に冷気が強い。
これを取らせる。」
そうして自らかぶっていた頭巾を取ると、手ずから忠世に与え、

「直ぐにこれを被るように。」と言ったが、
忠世は御前を憚り被ろうとしなかった。

 

家光はこれを見て、
「上意であるぞ。何故被らないのか。」
と言ったため、終にこれを被ると「良く似合っている。」と笑った。

その時、秀忠は家光に向かい、
「将軍は雅楽頭を気に入らぬそうだな。彼は東照宮(家康)このかたの旧臣であり、

天下大小の政事に熟練しているので、私が将軍職を譲った時、それに添えて彼を遣わした。
それを気に入らぬというのは。御身の我意というものである。
よいか、天下を治める者に、我意はならぬものだ。」

そう言い、また八朔の日のことも取り上げ強く教諭し、

これを家光も畏まって聞いたが、何の答えもしなかった。

忠世は、この後どんなお咎めを受けるかも解らないと思っていたが、

家光は本丸に帰ると、直ぐに忠世を召して、

「今日は御隠居様(秀忠)より殊の外お叱りを受けた。

よく考えて見れば、お前が天下の政道を大事と思って言う言葉を、

私は悪しざまに聞いていた事は、今更悔いても甲斐のないことである。

雅楽頭よ、今後は尚更に、思うことを残さず言ってほしい。」

そう、さわやかな表情で言った。

 

その後城構えの工事御覧のため出かけたが、この時、家光が、
「雅楽、先にいけ、先にいけ。」

と言うので忠世が先に回った所、さらに「頭巾!頭巾!」と、
先に秀忠より頂いた頭巾を被るよう促した。

しかし忠世が被りかねた様子だったので、
「御免であるぞ!否むこと無かれ!」

と言って、終に被らせたという。

 

 

 

戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。 

 

 

 

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→ 二世権現、徳川家光

 

 

 

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