後の三代将軍・徳川家光も、色を知る歳になり、
母であるお江(崇源院)の侍女に、想いを寄せるようになった。
が、父・秀忠に、全く浮気を許さない母や、
ヘタな武士より、よほど肝の据わった乳母・お福(春日局)といった、
目上の女性の眼を煙たく思った家光は、
深夜、般若の面をつけて、侍女の部屋へ忍んで行った。
その後、江戸城内に妖怪が出るとの噂が立ったが、お江はおびえる侍女たちに、
「それは妖怪などではありませぬ。男が女のもとへ、夜這いに通っているのでしょう。」
と言って笑った。
母の発言を聞いた家光は、侍女の所へ通うのを控えるようになったが、
やがて侍女は、妊娠が発覚して、
「相手は般若面の男に相違ない。御台様に仕える女が、みだらな!」
他の侍女が、騒ぎ出した。
「ど、どうすれば良いのだ…。」
悩む家光に、近習の伊丹権六が、名乗りを上げた。
「般若の面を、私に下され。私がそれをつけて忍び込みます。
捕らえられても、若様の名は絶対漏らしません。」
「そ、それではお前はどうなる!?」
「戦場で果てるも、ここで身替わりとなるも、若様のために死ぬ事に、違いはござらん。」
その夜、大奥に忍び込んだ権六は、警護の伊賀者に捕らえられ、
不届き者として磔刑となった。
侍女の方も、最後まで家光の名を出さず、見せしめとして、火あぶりに処された。
家光は、二人の忠義を前に、己の行為を深く後悔し、
以後、女性に手を出す事を、恐れるようになったという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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