この書物を、徳川家の御譜代久しき衆がご覧になって、
我が家(大久保家)の事ばかりを依怙に書いたと思われるかもしれないが、
そうではない。
これを書き置いたのは人に見せるためではなく、
私(大久保忠教)は最早七十にも及び、今日明日にもどうなるかわからない。
故に、今にもむなしくなってしまえば、我家が仕える御主様(徳川家)が、
どれほど久しい御主様なのか解らなくなる。
これは我が家が徳川家を御主様と仰ぎ奉ってから、当代の将軍様まで、
九代に渡って御主様であることを、我が倅に知らせるためであり、
又、我々に至るまでの大久保家の辛労を知らせるために書き置いたのだ。
門外不出と申し置いているので、誰もご覧になることは無いと思うが、
もし、たまたま落としてしまい、
ご覧になってしまったとしても、依怙に我が家の事ばかり書いたと仰せに成られるな。
御譜代久しき衆は、
何れも自分の家々の御忠節の筋目、御譜代久しき筋目を書き立て、
子供たちへ御ゆずりに成るべきだ。
私はこのように、我が家のことをばかり書き立て子供に譲る。
であるので他所の事については書かなかった。
以上。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
こちらもよろしく
ごきげんよう!