具足もちの祝い☆ | げむおた街道をゆく

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大久保彦左衛門が、鑓奉行から旗奉行に出世したころの話。
 

正月の具足もちの祝いに出席するため、同僚の鑓奉行今村某とともに、

夜明け前から登城し、
山吹の間に詰めていた彦左衛門。
 

ところがいかなる手違いか、彦左衛門たちに何の連絡も行かないまま、

儀式は始まってしまった。

そのうち、肝心な鑓奉行と旗奉行がいないことに気づいた目付たちは、

あわてて彦左衛門たちを呼びに来るが、ずっと放置されていた彦左衛門は、

自分たちが忘れられていたことを知るや、すっかり気分を損ねてしまう。
「われらは夜明け前から詰めておるのに、われらを忘れたとはどういうことだ。
神君以来、具足もちの祝いに旗と槍がないなど前代未聞のこと。
これはわれらが年寄りだから役に立たないということだろう。

ならさっさと退出することにしましょうわい。」

目付たちも困ってしまい、老中たちに報告。今度は老中が駆けつけてくる。
正信、利勝以来の幕府の問題児担当である酒井忠勝が、

「忘れてすまなかった。」

と頭を下げても、彦左衛門すねて天井を見上げたまま。
ムッとした知恵伊豆が、

「こっちの過ちだから頭を下げているのにその態度は何だ。」

というと、
 

彦左衛門、
「軍礼で槍と旗を忘れるなど初めて聞き申した。

それにわれらは洗膳で食うなどという不名誉も受けたことはござらん。
のう、今村。世も末になったのう。」
すっかり頭にきた知恵伊豆が、

「将軍家に洗膳という作法はない。だいたい、今が末世とは言葉が過ぎよう。」

というと、
もう彦左衛門も後には引けない。
「伊豆の守殿ほどの方も、軍陣の作法は知らぬものだの。

陣中において、
一番席を与えられた武者たちが食べ終わって退出した後、

2番席として食事を出されることを洗膳といって、勇者はこれを嫌うものだ。

また、具足もちの祝いに槍と旗を忘れるなどということも聞いたことがないゆえ、

今が末世と申したまで。
われらは長く権現様のお供をしたが、旗と鑓はおるかと聞かれたことはあっても、
失念されたことはないし、一番席を与えられなかったこともない。
知らぬことに口を挟むものではござらぬよ。」

これには横にいた鑓奉行今村某も真っ青になって、
「もうよいではないか。これ以上好き放題言うと、(自分も含めて)みんなのためにならんぞ。」
と押さえにかかるが、その行為は火に油を注いだだけ。
知恵伊豆も二の句が告げず、周りもおろおろする中、酒井忠勝が進み出て、
「ご老体の言われることもっとも。しかし祝いの場でありますし、
この私がご相伴させていただきますので、どうか一緒に席についてくだされ。」
というと、彦左衛門も機嫌を直し、

「忠勝殿のご相伴とあれば。」

と応じて席に着いたので、騒ぎはやっと収まった。

 

 

 

戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。 

 

 

 

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→ 三河物語、大久保忠教

 

 

 

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