将軍より旗本に、御役料(役職給付)を下されることがあった時、
大久保彦左衛門と、
今村九兵衛の跡役を務める者の二名が、
「我々にも下されるべきなのに、未だ御役料の御沙汰が無いのはどういうことか?」
と、両人申し合わせ担当奉行である土屋但馬守数直に願い立てを行った。
これに対し土屋は、
「あなた方は先輩であり、特に大久保、今村といえば、神君よりの旧臣でありますから、
言いたい放題に言いたいことを言っても、お上も格別に思し召されてゆるし置かれています。
で、あなた方は先に役についていたため、
それを以って今回の御役料の件の願い立てを行ったのでしょう。
ですが、あなた方が現役の頃とは、時代も違い人も違います!
その上、今度下される御役料は、昨今は御加増もない時節であるので、
小身の人々に、御扶持米のつもりで下されるものなのです。
あなた達は、御旗本の中で大身小身で分ければ大身の方ではないですか!
であれば、例え今回の件が上聞に達したとしてもその願い立てが叶うことはありません。
ですからあなた方の提出した願書は差し戻します。
というか、この願書がもし上聞に達したら、
却ってあなた方の為に宜しくない結果になりますよ。
そもそも願いの筋が不当です!」
こうピシャリと言われて、大久保らは願い立てをやめた。
或る老人は、
「先役の大久保ならば、差し戻されるような願書は出すべきではないし、
また差し戻されてもそのまま請け取って帰るべきではない。」
と批評した。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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