ある時、春日局が急ぎの用あって夜中に駕籠を早めて登城した。
その頃の春日局は飛ぶ鳥を落とすというほどの勢いであったから、
門番もあえて止めようとはしなかった。
ところが平川まで来た時はそうはいかなかった。
御供の者が、
「春日局様が急ぎの御用あって登城である。早く門を開けられよ!」
と言うので番の者は責任者の大久保彦左衛門に仔細を伝えると、
彦左衛門は臥したまま起き上がりもせず、
「この大久保彦左衛門が御番仕っておるからには春日殿といえど放置じゃ。
そのように仰せられても、
こんな夜更けに通すことはできませんとでも言っておけ。」
と言った。
門番は(後で絶対問題になるよなあ…)と思いながらも仕方なく、
彦左衛門の言葉を伝えたところ、春日局は、
「もっともです。
ならば男どもはここに残し、我ら二、三人の女だけで歩いて参ります。
どうか御通し下さい。」
と懇願した。
それでも彦左衛門は返事もせず、結局春日局は、
夜明けまで門外で待たされてしまった。
あまりの扱いに春日局は徳川家光に訴えたのだが、家光は、
「お前の憤りはもっともなのだが、お前も知ってのとおりあれは不分別の強情者だから、
もしもお前ではなく、わしだったとしても必ず門を開けたかどうかわからん。
あれと出会ったのは運がなかったと諦めてくれ。」
と言うので、春日局もどうしようもなく泣き寝入りした。
その後、彦左衛門を召し出した家光は、
なんとはなしに黄金と佩刀を与えたという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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