献上のサザエ☆ | げむおた街道をゆく

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信長の野望、司馬遼太郎、大河ドラマが大好きです。なんちゃってガンダムヲタでもあります。どうぞよろしく。

 

前田利常公の時代のこと。

山本瀬兵衛は、御用によって、小松から金沢に召されたのだが、

いつもどんな用であっても、
召された時には軽いものを利常公に献上していたのに、

この時はうっかり忘れて来てしまい、
台所奉行の佐藤久右衛門の所に行き、

「何でもいいので、手頃なものが有れば貸して頂けないだろうか?

後で同じ物をそろえて返すので。」

と聞くと、

「今朝方どこかからサザエが一折来ていたが。」

とのことなので、それを借りた。

ところが、その時期はちょうど夏であったため、サザエのうち1つか2つ、臭うものが有り、

「主に腐ったものを、贈るなどあるものか!」

と、受け取った利常な以ての外に機嫌が悪くなり、

そのため右筆の中村久越殿が、山本の所にやって来て、彼を散々に叱りつけ、

この事を聞かせると、山本はしかし、

「これは近頃、迷惑なことです。

私は急に召し出されたため、献上品を忘れてきてしまい、
台所に行って佐藤久右衛門殿に、

『何かあったら貸してほしい。後で揃えてお返しする。』

と言って、
サザエを借りたのですが、その時私は焦っていて、それをろくに確認しませんでした。
そのため、少し悪いものがあったのでしょう。」

と言い、この事が中村久越から申し上げられると利常は、

「それが申し訳になるものか!

それは田舎たわけの披露というものだ!
佐藤久右衛門は田舎ぶりの抜けない人間で、それ故に信頼していたのに、

久右衛門は親や子供には知らないが、

人に物の用に立つものを貸さないような者であったのか!
そのような人物を重宝して台所奉行に置いていればそれは、

前田家全体が田舎一門と見られてしまう。

それはたわけの至極である!

早々に調査をせよ!」

との御意であったので、次の日、山本瀬兵衛が、

再びサザエを佐藤久右衛門から取り寄せさせた所、
今度は初めのものより大きく新鮮で、見事なものをくれ、

しかも目録に印まで押して遣わされた。
 

これを見た前田利常は、

「久右衛門は、山本瀬兵衛の事を、ちゃんと心に懸けておるわ。」

とお笑いに成り、中村久越は山本に、

「昨日はお叱りになったのに、今日のサザエは見事だと、
お褒めになっていたよ。」

と伝えて笑われた。

この事は私(著者)の亡父である、山本瀬兵衛が話したことである。

 

 

 

戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。 

 

 

 

こちらもよろしく

→ 底の知れぬ人、前田利常

 

 

 

ごきげんよう!