ある時、神保長八や、我が祖父である脇谷九兵衛といった、
前田利常と心安き者達が、
御前に寄り合い、歓談していたことが在った。
この時、利常公がお尋ねになった。
「下々はきっと私のことを、吝い殿様だと言っているだろう。」
座の人々は、
「いいえ、そのような事は聞いたことがありません。
ただ、『御物綺羅し』とは、呼ばれています。」
御物綺羅しとは、綺羅びやかな御物を取り揃えているといういみであろうか。
しかし利常公は強く否定した。
「いや、そのように言うはずがない!」
これには御前の人々も意地になって、誓言まで立てて同じことを申し上げる。
しかし利常公は、
「いいや、そんな事が有るはずがないのだ。
私は歳を取って、殊の外吝くなったことを自覚しているのだ。
昔と違って、加増や、その他褒美を取らせるときも、
2度も3度も思案してしまうのだ。
昔は思い立ったらすぐさま、そのまま遣わしたというのに…。」
これは神保八左衛門の話に伺ったことである。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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