林が心中、尤も至極である☆ | げむおた街道をゆく

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或る本によると、大坂冬の陣の御和睦の後に、

塙団右衛門(直之)の古き傍輩・知音らが、彼の元を訪れ、
音信をする中に、水野日向守勝成の家人である黒川三郎右衛門が訪れ来た。
 

直之は、彼との物語の序に、このように問うた。
「私の旧知である林半右衛門は、必ず訪ねに来るべき者なのだが、未だに音信がない。
もしかして今回、この表に出てきていないのだろうか。非常に不審である。」

三郎右衛門は、これを聞くと、
「半右衛門は今、池田武蔵守(利隆)に奉公し、天満口に居る。」

と云う。
 

団右衛門は即ち、黒川三郎右衛門を以て、林の方に申し送った。

『古き傍輩たちは皆、私の所に訪ねて来ているのに、御身は遂に音信をしてこない。

その心如何。』

林半右衛門は、このように返辞をした。

『私が貴殿に無音である仔細は、我等は若年の時、

「未来大名に成るとも、自身鑓を取り太刀打ちを致さずば勇士の本意に非ず」

と申し合わせた。

であるのに先達て貴殿の夜討(本町橋の夜戦)の有り様を聞くに、
貴殿は本町橋の上に在って床几に腰を掛け、

白旄(指揮官が指揮をするときに用いる旗)を取り、
その身は手を下さなかったとか。
貴殿は今年四十八であり、未だ勇力の衰える歳ではない。

武辺に歳を寄せ勿体を付けた話を聞くのも、
如何かと思い、使いも遣わさなかったのだ。』

黒川が、この旨を団右衛門に伝えると、彼は涙を浮かべ、
「林が心中尤も至極である!

私が夜討の時に大将の仕方を致したのは別儀にあらず、

先の関ヶ原御陣にて、
私が足軽の備に張り出した事を、出過ぎた事だとして、

故主である左馬介(加藤嘉明)は以ての外に怒り、
『己は一代、人数を引き廻す将にはなるまじ!』

と叱った。
私はそれを無念に思い、一生に一度采配を取り、

将帥の功を故主に見せたいとの念願により、夜討の時、
むず痒さを忍んで采配を取ったのだ。
最早望み足りたる上は、重ねての事あらば、

太刀は目釘の堪える迄、鑓は端食抜ける迄働いて討ち死にを遂げ、
林に見せ申さん!」

そのように語ったと云う。

 

 

 

戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。

 

 

 

こちらもよろしく

→ 言い触らし団右衛門、塙直之

 

 

 

ごきげんよう!