塙団右衛門が、旧主の加藤嘉明に奉公構された末に、
妙心寺で出家して“鉄牛”と名乗っていた時のこと。
京の色町・六条柳町の左近という遊女から、
『久しぶりに是非とも団様にお会いしたい。』
と、熱烈なラブレターが届いた。
この左近、柳町遊郭でも際だって美しかったが、
まだ武士だった団右衛門が口説いた時には、
罵倒を加えたような女だった。
まあそんなことは昔のこととて、団右衛門がほいほい会いに行って酒を酌み交わすと、
用件は出来てしまった隠し子を託したいと言うことである。
(出家の身の団右衛門に預けるという事は、
妙心寺に入れる口添えをしてくれということだろう。)
「ははあん、そんなことか。」
と思いながらも、頼まれごとに二つ返事で快諾する団右衛門。
喜んだ左近は以前彼を振った時とは別人のように媚びて、
お礼とばかりにしなだれかかり同衾を誘った。
しかし団右衛門、猛然と衾を蹴って立ち上がり、
「酔っぱらって忘れたのか? 俺は僧だぜ。同衾なんざご免だね。」
とその手を振り払って帰ってしまった。
出家した後も飲酒や帯刀を止めなかった彼も、女犯に関してはストイックだったのか。
それとも見返りを目当てにするような男と思われることに我慢がならなかったのか。
兎に角、塙団右衛門、据え膳を引っくり返したというお話。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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