塙団右衛門が、加藤嘉明に仕えていた頃の話である。
ある時一人の科人が出て、藪與左衛門、塙団右衛門の両名に、
これを討ち取る事が命ぜられた。
二人は籤を引き、與左衛門が一の太刀、団右衛門が二の太刀を受け持つ事となった。
さて、その科人の家に着くと、與左衛門が討ち取る次第の言葉をかけ、これに斬り懸かる。
かの者もたちどころに刀を抜き、これと斬り合う。
激しい鍔迫り合いとなった。
…が、団右衛門の二の太刀が、いつまでたってもこない。
與左衛門、どうしたことかと振向くと…。
焚き火に当たっていた。
その日は寒気非常に強い日であり、団右衛門は二人の戦いを気にもせず、
暖を取っていたのだ。
「何やってんだお前!?」
與左衛門怒る。まあそりゃそうであろう。こっちは命のやり取りをしているのだ。
しかし団右衛門、よほど寒いのか火の前から動こうとしない。
『こんな奴は当てに出来ない!』
與左衛門、どうにか一人で科人を切り伏せ、これに止めを刺したそうである。
この事の終始、検使のものが報告したのだが…。
なんと、焚き火に当たっていただけの団右衛門、科人を斃した與左衛門と同じ、
白銀10枚を褒美として与えられた。
その理由は、
「同僚が戦っている最中、平然と火に当たっていたのがなんか凄いから。」
だそうだ。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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