朝鮮征伐の頃。
ある日、藤堂高虎は夜陰に乗じて敵に近づき数隻の敵船を奪って帰ってきた。
その翌日も同じ手口で敵船を奪ってきた。
秀吉の命もなく行なったこの行動は、軍令違反だった。
しかし敵船を奪ってきたことから手柄とされた。
これに、高虎をライバル視する加藤嘉明が悔しがった。
(高虎を上回る功を挙げたい、しかし高虎のせいで締め付け厳しく抜け駆けは難しい。)
悩んだ嘉明だったが、何かを思いついたのか部下の塙団右衛門に物見の船を出させた。
普通、物見は戦闘は行なわない、ある程度の距離から敵を偵察するだけである。
これなら軍令違反にはならない。
だが団右衛門はドンドン敵に近づいて行く。これに嘉明は慌てた。
「イカン!近づき過ぎだ!団右衛門、船を戻せ!」
しかし聞こえないのか団右衛門は船をなおも進めた。
ついに嘉明は、
「ちょ、待てよ! 待てって軍令違反になるってば!」
と言いつつ自分も船を進めはじめた。
嘉明の部下たちもすわ殿の一大事とばかりに一斉に船を進めた。
何の事はない。
嘉明の軍は、「戻れ、戻れ。」
と言いながら敵に一斉に襲いかかったのである。
この不意打ちに敵は大混乱。
団右衛門を先鋒とした嘉明軍は大活躍し、戦いらしい戦いもないまま、
敵船数十隻を奪い意気揚々と帰還した。
抜け駆けした事にかわりなく軍令違反となるのだが、もし秀吉がそのことを質せば、
嘉明はこう答える気であった。
「攻撃したわけではありません。
物見に出した部下がドンドン敵に近づいてっちゃうもんで、
それを止めようとしたら敵船が目の前にあっただけっす。」
「ええ。抜け駆けする気なんてこれっぽっちもありませんでしたよ(棒)。」
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
こちらもよろしく
ごきげんよう!