織田軍が有岡城を攻めた時、四十歳ほどの武者が、
一番乗りと声を上げながら、堀を越えてきたものの、
敵に取囲まれて万策尽きてしまった。
「某は先を争ってここに来たのだ。決して命を惜しんでなどいない。
だが某には七十歳の母がいる。
明日も知れない身で某以外に養うことができる者もいない。
この期に及んでもなお頭に掛かるのは母のことだけだ。
ここで某が討たれれば、老母は明日より飢えと寒さに苦しみ死んでしまう。
それはあまりにもうらめしいではありませんか。
どうか哀れとお思いなら私を逃がして下さい。」
この時、荒木村重は武者の顔に溢れ出る孝心を感じ取った。
「なんと不憫なことであろうか。親を大切にする気持ちは誰でも同じだ。
早く帰って老母をいたわってやれ。」
そう言うと村重は武者に金銭を与え、門外まで人を添えて送り返したという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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