佐々陸奥守成政が、越中の守護職であった時、彼は越中外山に在城していた。
何保という所に、菊池入道と号す者があり、
彼は元は長尾(上杉)に属し、現在は佐々に随心して、
我が子を成政の傍に使わし、常に外山に出仕して、越中の昔のことなどを物語した。
ある時、酒宴たけなわで成政も興に乗じている時分、
常にもてはやしていたナマズの盃を取り出し、これに酒をつがせ飲むと、
次に菊池入道へさした。
入道三度これをかたむけ成政へ返し、腰に挿していた脇差、
これは波平であったが、それを捧げ、
「慮外ながら献上仕る。これはかつて長尾(上杉)謙信より受納した物ですが、
どうか謙信にあやかり給うように。」
そう言ったところ、成政は大いに怒った。
「何事をあやかるというのだ! 謙信の武勇など、いか計りの事があるというのか!」
入道を怒鳴りつけ、脇差を投げ捨てた。
入道はこれに、
「武勇のことではありません。謙信は九ヶ国の管領でありました。
ですので、果報いみじくましますように、との事です。
この入道も老耄して、酒興故にこのような事をしました。
この脇差はどうぞ御小姓衆へ。」
と、酌に立った小姓に遣わした。
これを見て成政も機嫌が直り、
「小姓どもへのあやかり物としては丁度いい。」
と言って笑った。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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