加藤嘉明が、召し使うものに、弥兵衛という道具持ちがいた。
ある時、彼が預かっていた嘉明の槍から、銀の金具を外して売ってしまった。
後でこの事が発覚し、弥兵衛は打ち首と言う事となった。
このとき嘉明、弥兵衛に言った。
「よりにもよって、何と言うものを盗むのか。
槍は武士が第一に大切にするものだ。
その上、お前を信用して預けた道具から盗むとは、これは重罪なのだぞ?
しかし…、おぬしに家族は有るか?」
「はい。母と妻と、子が息子と娘の二人、甥が一人おります。」
「お前の禄はいかほどだ?」
「三両二人扶持でございます。」
義明、これをじっと聞いて。
「…二人扶持で六人の人間を養うには、盗みでもしなければ無理であろうな。」
そう言って弥兵衛の罪をゆるし、さらに彼の子のうち男子は草履取りに、
女子は奥方に奉公させ、甥は足軽にさせた。
こうして罪を犯したというのに、弥兵衛一家は返って幸せになり、
彼の朋輩達も大いに羨んだとの事である。
悪い事をしたわけではありますが、罪を憎んで人を憎まず。
苦労人の加藤嘉明らしい、人情味溢れる採決、のお話。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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