結城秀康と福島正則、この二人、気が合ったらしく、
よくお互いの屋敷に遊びに行っていた。
さて、ある時、正則が秀康の屋敷を尋ねた折の事。
奏者が秀康に取り次いでいる間に、正則は、
玄関に掛けてあった秀康の槍を何気に手に取り、
鞘を外し、刃を爪にかけて見入ってしまった。
これを秀康の目付けが見てしまった。
彼はすぐさま秀康に報告した。
たちまち、秀康の顔色が変わった。
他人の槍を鞘まで外して勝手に見ることは、武人の礼に外れた事である。
しかも大名の槍であればなおさらだ。
秀康もこんなとき、黙っている男ではない。
「わしの愛刀、新藤五三桐を持って参れ!」
これは血を見る。
近習の一人が気を利かせ、秀康に黙って御前を離れ正則の下に行き、
「あなたが槍を見たことを秀康様がお知りになり、ご機嫌が…。」
と、耳打ちした。
すると正則。
「…うっ!突然持病の発作が! すまぬが今日はこれにて!」
帰った。
さて、問題はまだ残る。
主君の槍を他人に勝手に見られたこと、これは重大な管理責任である。
秀康の槍の管理を任されていた金左衛門という侍が、御前に現れた。
無論、切腹を覚悟の上である。
秀康は、その槍をじっと眺めながら、金左衛門に言った。
「正則に爪をかけられたことは、恥ではない。
だがこの刃に塵の一つでもついているようなら、
お前を串刺しにしてやろうと思っていた。
…が、金左衛門、お前がどれだけわしの道具を大切に扱っているか、
この槍を見て良くわかった。
お前は、俺が見込んだだけの男だ。」
そう言って、新たに百石を加増した。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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