徳川秀忠は、その老臣・本多佐渡守正信の事を大変尊敬しており、
彼に三万石を与えようとした。
ところが正信は、こう申し上げた。
「大変ありがたく存じますが、私は元はただの鷹匠に過ぎませんでしたが、
現在このようにお取り立て頂き、今の禄でさえ身に余ると思っています。
この上過分の御加増を拝領しては、
冥加恐れ入る事であります。
どうか、御加増のこと、下されませんように。」
「しかし正信よ、今のような低い禄のままでは、お前も万事不自由ではないか?」
「いえ、私は御政治を預かっていますので、天下の大名より金銀財貨が送られてきます。
それ故不足などということはありません。ですので、御加増は拝領いたしません。」
そう言うと正信は、袂から小さな壺を取り出し秀忠に差し出した。
秀忠はそれを手にしじっと眺め、
「これは誰が送ってきたのだ?」
「黒田からです。」
「そうか…。私はお前のことを羨ましく思うよ。」
秀忠はそう、戯れを言ったという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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