関ヶ原直前の八月八日、かねてより体調を崩していた井伊直政は、病に倒れた。
外様諸侯の相手をせねばならないのに、
普段の不摂生がたたったのか体はいうことを聞かず、
甚だしく熱を発し、生死の境をさまよう危篤状態が数日続いた。
これを不寝で看病していた医師の某は、
あらゆる薬を試したがどれもまったく効果が無い。
未だ服用していない薬が一つあったが、
それは直政が以前家康より拝領した、
飲めば生死は二つに一つと言われる劇薬であった。
「これを用いるべきだろうか。」
そう尋ねる直政に、匙を投げかけている医師の答えることには、
「病ここに至った以上、用いるよりほかありますまい。」
その言葉を聞いて劇薬を服用した直政、汐が引くように熱も下がり、
みるみるうちに全快し八月十二日には監軍に復帰した。
しかし薬の服用を定めた医師某にはなんの褒美もなく、
まもなく改易されてしまったという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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