井伊兵部(直政)家中の木俣土佐の家来・何右衛門は、
九戸陣で首をひとつ取ったのだが、
その首を、朝比奈左大夫が、頻りに奪い取ろうとした。
何右衛門は、為す術なく奪い取られる時に、
その首の右耳の外れから左へ一刀を突き通した。
後に首実検の時、朝比奈は、その首を持って出た。
そこへ何右衛門は、つるつると走り寄り、
「重いものを、ここまで持参してもらいかたじけない。」
と、言うと、羽織を首へ被せて、
「この首を、それがしが取ったことは疑いない、 あの男が奪ったのだ! 証拠がある!」
と、言った。
朝比奈は、
「下がれ! 推参をぬかしおる!」
と言うも、何右衛門は少しも屈さずに、首の耳下の証拠を告げた。
朝比奈は終いに、武士をやめて法体となり、
道無と名を改めて、駿河様のもとへ出て、
その後に三河守殿に仕えた。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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