今川氏真の家臣に、城戸助之允と牧孫左衛門という、優れた武士がいた。
助之允は、戦場で桔梗笠をつけたので、
『今川の桔梗笠』
と呼ばれ、
孫左衛門は、
『鉄孫左衛門』
と呼ばれた。
だが孫左衛門は早死してしまい、その家族は田舎でひっそりと暮らしていた。
孫左衛門の子・宗治郎は、いつかは父のような侍になりたいと思っていた。
その後、好機が訪れる。
今川と徳川が戦をすることになったのだ。
宗治郎は、田舎から出て来て、
父の旧友・助之允に会った。
「今度の戦ではなんとしても、父に負けない武功を立てたいと思います。
聞けば敵には、
『徳川の鹿の角』
という異名の武士がいるとか。
その男と戦うためにも、あなたの桔梗笠を貸してくれませんか?」
「お若いのに立派な志だ。断る理由はない、持って行きなさい。」
感銘を受けた助之允は、快く桔梗笠を貸してくれた。
さて、桔梗笠を被った宗治郎は、戦場に赴き、鹿の角を探した。
そして遂に、それらしき武者を見つけた宗治郎は、果敢に立ち向かって行く。
しかし、異名を持つだけあって強い、宗治郎は、あっという間に組みしかれた。
宗治郎は、桔梗笠をとられ、首を掻かれる寸前になった。
「今川の桔梗笠もこれまでだな! …って、誰だお前!?」
お前は、誰だと訊ねられたので、宗治郎は自分の身の上を全て話した。
「なるほどそういうことか。
お前の志はたいしたものだな。
よし、ここはお互い退くことにしよう。
今後、お前の武運が強ければ、私がお前を頼ろう。
逆に私の武運が強ければ、お前が、この本多忠勝を頼れ。
なぁに、遠慮はいらん、心安く頼ってこい。」
間もなくして、今川家は、没落したが、宗治郎は、この時の約束を頼って、
忠勝の家来になったとのことである。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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→ 蜻蛉切、本多忠勝
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