二代将軍・秀忠は、非常に花を愛した。
大名諸侯はこのことを知っていて、領内特産の花木、
あるいは特に改良した品種を競って秀忠に贈った。
それらの中で秀忠を虜にしたのが、花弁に斑の入った椿である、
「広島しぼり」
である。
秀忠はこれを接ぎ木で献上されたが、さっそく本丸の御庭に植えた。
そして手入れの者に椿の育ち具合や花芽の様子、開花時期などを逐一尋ねる。
そのため、手入れの者も「広島しぼり」には特に気を使い、
葉の一枚一枚まで念入りに手入れしていた。
しばらくの後、つぼみが開き始めたので秀忠に知らせたのだが、肝心の将軍は、
「花は見事か? ……斑の入り具合はどうだ。」
と尋ねるばかりで庭に出てきて観賞しようとしないのだ。
日ごろ気にかけていたにも関わらず、せっかくの開花を見ることはなかった。
実は、その時、秀忠は喪服中の身で、直射日光にあたってはならないという、
宗教的な定めのために、
「広島しぼり」
を観賞したい気持ちを懸命に抑え込んでいたのだ。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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