ある時、将軍・徳川秀忠は、駿府城の二の丸に、1ヶ月ばかり滞在していたことがあった。
大御所である家康は、阿茶局を召して言った。
「将軍は壮年であるのに、旅住にあるのも既に一月なれば、
いろいろ退屈にも思っているだろう。
美しい花(女性)に菓子を持たせて、
我が命だと言って遣わせば、拒否もしないだろう。
お前の心得にて計ってくれないだろうか?」
これに阿茶局、
「よくお心付きたる仰せです。」
と、早速女性を選びこれに菓子を持たせて、宵の口の頃、
ひそかに参上させた。
尤も、秀忠にはかねてより阿茶局から斯くと申し上げ置いてあったため、
秀忠は裃を着た姿で女性を待っていた。
女性が秀忠の部屋の前に来ると、彼は自ら立って戸を開け、彼女を上座に座らせ、
持ってきた菓子を頂き、手をついてそれへの御礼を申し上げると、
女性に、
「さあ、早く帰られよ。」
と、自ら先に立って戸口まで送った。
その姿、意義正しく、言語厳かであり、女性は顔を真赤にして立ち帰り、
この事を阿茶局に報告した。
このように、秀忠が女性を、
あくまで家康からの遣いとして対処したことを聞いた家康は、
「早くも帰されたのか。将軍は元より律儀な人であるが、私が及ぶところではないな。」
そう感嘆したという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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