関白・秀吉のもとに参上して、用事を終えた細川幽斎が、毛利輝元一行と出くわした。
「やぁ幽斎どの! あなたは諸芸を修めているが、魚料理も得意だとか。」
「えぇ、まあ。」
「ちょうど良い。私は今、見事な鯉を持って来たところです。
ここで、得意の包丁を振るっていただけぬだろうか。」
「・・・ここ(廊下)で?」
「ええ、ここで。」
「・・・まぁ良いでしょう、やります。」
「やった!おーい、鯉と包丁と板を持って来てくれ!」
「そ、それが急の事で、包丁とまな板の持ち合わせがございませぬ。」
「え。」
「輝元どの、ご心配なく。こんな事もあろうかと…道具箱を持って参れ!」
幽斎は自分の道具箱から、包丁を取り出した。
「おお、さすがは幽斎どの!」
感心しつつ、輝元は、道具箱の蓋に奉書紙を二枚重ねて敷き、その上に鯉を置いた。
「ふむ、まな板の代わりですか。
さすがは大江広元卿以来の名家、故実を良く知っておられる。」
褒められて喜ぶ輝元の前で、幽斎は素早く鯉を切り分けた。
鯉をより分けた後の奉書紙には包丁の切れ目がなく、
目線まで紙を近づけて始めて、あるか無しかの跡が二筋見えたという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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