大坂の陣の夜のこと。
藤堂高虎の陣に、風に乗ってキリキリと何かがきしむ音が聞こえてきた。
「面妖な。城方の伏兵あたりが弓を試す音か、それとも何かの怪異か?
よし、玉置太郎助を呼べ!」
家中において、弓の名手として知られる豪の者を呼んだ高虎は、太郎助に命じた。
「あの『音』を射よ!!」
真っ暗闇の中、音だけを頼りに的を射ろ、というなかなかムチャな命であったが、
ともかく太郎助は闇に一筋の矢を放った。
格別に当たった音もしなかったが、それだけで音は止んだ。
「はて。伏兵ならば、うめくなり逃げる音なりが聞こえよう。
するとやはり妖しの類であったか?」
翌朝、矢の飛んだ辺りを見に行って、高虎の疑問は氷解した。
「・・・なるほど!」
そこには一本の柳の木があり、枝が大きく裂けていた。
裂け目に風が当たって、きしんでいたのだ。
今、その裂け目には、玉置太郎助の放った矢がピタリと挟まり、
柳のきしみを止めていた。
音だけを頼りに、物の見事に的に当てた太郎助を、高虎はじめ皆が賞賛した。
この玉置太郎助、矢で敵の内股を狙い撃ち、
倒れたところを首を取って、弓の腕を認められた。
「まぐれ当たりじゃ。」
と、太郎助をそしる者もいたが、その後も彼は弓をもって手柄を立て続け、
その愛弓には、
『此弓、弱しといへども敵七人を射倒す』
と、誇らしげに銘が刻んであったという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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