藤堂高虎が、伊予の板島城に在城していた、ある年の9月6日のことである。
その夜、高虎は数人の侍臣に酒を振る舞い、賑わしく過ごしていたが、
話の半ばに至って突然黙りこみ、じっと耳を傾けているふうであったが、
やがて座を立ちひらりと庭に飛び降りた。
皆は驚いて立ち上がったが、高虎は振り向いて手を振ってこれを制し、
そのまま足を進めて暗い庭を、向こうの堀際まで進んだ、と思う頃、
「バサリ」と太刀音が響き渡り、同時に、
「燈火を持ってまいれ!」
と、高虎の大声が響いた。
侍臣たちは応と答えて手燭を持って駆けつけると、
そこには年頃40ばかりの大男が、
袈裟懸けに斬られて倒れていた。
高虎は笑って「酒の肴をしたぞ。」と言いながらとどめを刺した。
夜が明けてこの大男の詮議をしたが、
結局それがどこの何者なのか解らぬままに終わった。
しかし、
『曲者が忍び込んだのをただ一人早くも察知し、一刀に斬って捨てられた武運の強さよ。』
と、この話を聞く者、高虎の武勇に感じないものはいなかったという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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