慶長3年、上杉景勝が会津へ移ることになる折、
横田式部という者が、召使いの茶坊主を斬罪にした。
そもそも誤りのないことだったので、坊主の親類が大勢決起し、
前田玄以と石田三成に、親類らは訴えた。
これに玄以と三成は、
「その事は直江の方へ申せ。」
と指図したので、訴訟人らは直江兼続のところへ詰め掛けた。
兼続は対面し、
「皆々の申し分はもっともである。それならば、主人の横田式部に、
詫び言のために、銀50枚を出させるので堪忍せよ。」
と、仲裁した。
だが、訴訟人たちはますます怒って帰り、再び玄以と三成に訴えたが、
取り合ってもらえなかった。
そこでまた兼続のところへ詰め掛けると、兼続は、
「それならば銀70枚を出させよう。」
と仲裁した。
しかし、訴訟人たちは、
「70枚でも700枚でも、死んだ人が帰るであろうか。
とても道理に合わぬことを御申しになる!」
と、難癖を付けた。
すると兼続は札を1枚取り寄せ、一筆書いてじかに持って出ると、
「訴訟人たちのうち、張本人は幾人いるのか?」
と、尋ねた。
これに、
「その坊主の兄と伯父がこれに。」
と、両人が出て来ると、兼続は、
「何と仲裁しても汝らどもは承知しない。
とかくこの上は、かの坊主を再び今生へ呼び還さなくては、汝らの心には叶うまい。
さりながら、誰も呼びに遣わす使いがおらぬので、
その者の兄と伯父と2人で迎えに遣わすとする。
この高札を持って早々に地獄へ参り、閻魔主にこれを見せて、
かの坊主を召し連れて帰るがよい。
すなわち、その文を聞け。」
と言い、高札を読んだ。
『いまだ御目にかかってはおりませんが、一筆申し入れます。
さて、横田式部の召使いの茶道坊主を親類どもが、
呼び戻し申したいと達て申しますので、
こうして親類2人を迎えに寄越し申しました。
きっと御返進してくださいませ。
恐々謹言。
二月十日 直江山城守兼続
閻魔大主殿 参』
以上の書付を読み聞かせると、兼続はかの張本人2人をその場で斬罪にし、
その高札を前に立てて、2人の首を獄門にかけた。
そのため、徒党は蜘蛛の子を散らすように逃げ失せ、
国中強訴は1人もなく、静謐と相成った。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
こちらもよろしく
ごきげんよう!