ある時、福島正則は、近習の武士の小さな罪を咎め、
広島城の矢倉に押し込んで、食物を与えずに餓死させようとした。
ところが以前、その武士に恩を受けていた茶坊主はこれに心を痛め、
密かに焼き飯を差し入れた。
武士、
「私は罪があってこうなったのだ。このような振る舞いが殿に知れれば、
私よりも罪が重くなろう。それに飯を食ったとて命が助かる訳でもあるまい。
早く帰れ。」
茶坊主、
「たとえ同じ罪に問われても後悔はしません。
私も以前死罪になりそうなときに、あなた様に助けていただきました。
恩を受けて、それを返さないのでは人とは言えません。
そのような弱気なことを言われて、
私の志を無にする事こそ口惜しゅうございます。」
武士はそれならばといって喜んでこれを食べた。
しばらくたってそろそろ死んでいるだろうと正則が矢倉に行くと、
武士は少しも衰えていない。
正則、
「だれか飯を差し入れてる者がいるんだろう!誰だ!」
茶坊主、
「私が差し入れをしておりました。」
正則、
「なぜこんな事をした! 頭まっぷたつにしてやんぞ!」
茶坊主、
「むかし罪を得て水責めにあい、殺されようとした時に、
あの方が申し開きして下さったおかげで、
今日まで思いがけず生きてくることができました。
その恩を返すため、毎夜こっそりと飯を差し入れていたのです」
正則、
「感動した!恩義を大切にする心意気に感動した!
許す!二人とも許す!」
そのまま矢倉の戸を開いて武士を解放し、二人の罪を許したという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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