福島正則が帰国するときは、いつも鞆の浦に着船していた。
この時、そのまま小身の者は、木綿の衣服に着替える作法となっていた。
ある年、鞆の浦の船中において、福島正則は酒に酔っていたのだが、
突然激怒して叫んだ。
「先ほど木綿に着替えるように触れよと、柘植清右衛門に申し付けたのに、
未だにそれを触れていないようだ! 清右衛門、にくき奴!」
しかし当の清右衛門はそのような命は受けておらず、
家老なども出て、色々と詫び言を申し上げたが、
「とにかく、清右衛門に腹を切らせよ! 奴の頸を見せなければ船より上がらない!」
正則はそのように言いはった。
日は暮れに及び、清右衛門は、
「私一人のせいでこのような事になり、勿体なき儀です。」
そういうと船から町家に上がり、そこで切腹した。
こうして清右衛門の頸が届くと、それを見た正則は機嫌が直り、
そのまま高鼾で一睡した。
そして目が覚めると清右衛門を呼んだ。
家老たちは、最前の委細を語った。
正則はこれを聞いて肝をつぶし、声を上げて泣いたという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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