ある夜のことである。
加藤清正は便所にいた。
外には小姓が数人ついていたが、
これは清正が痔持ちで用を足すのに、時間がかかるからである。
彼らが待っていると中からトントン。
足踏みする音がしてきた。
どうなされたのだ?
と彼らが不思議に思っていると、清正が中から話かけてきた。
「用を思い出した。庄林隼人を呼べ。」
隼人は風邪で寝ていたのだが、呼び出しとあっては、
行かねばならぬということで急いで参上した。
「お前の家来に茜染の袖なしの単羽織を着た二十歳くらいの男がいるだろう。
あれの名はなんと申すのか。」
「出来助のことですか。よく働く草履取りです。」
「その男だ。城下で芝居能があったときに出来助が小便をしているのを見たが、
鎖帷子や臑当をつけていて、平和になったというのに感心な心構えだと思い、
誉めてやろうと思ったのだが、のびのびになってしまった。
今、便所で能の足踏みをしていて思い出したので、
もうのばしてはならんと思い、そちを呼んだのだ。
人間いつどうなるかわからぬものだ。
私かお前のどちらかが死ぬだけでこのことはうやむやになる。
そうなってはいけないと思ったので、お前を急いで呼んだのだ。
夜更けにご苦労。
早く帰って出来助にこのことを知らせて、
相応に取り立てるのだ。
ただし、高禄にして恨みを買わないように配慮しろ。」
そして清正は急なことで家のものが心配してるだろうからと、
熱い酒を隼人に振舞ってから帰した。
帰った隼人はすぐに出来助を呼び、清正の言葉を伝えたうえで六十石に取り立てた。
出来助はそれ以降もよく忠勤したということである。
出来助よかったねという話だが、風邪で寝てたのに、
急いで参上させられた庄林はちょっと気の毒。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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