加藤清正が、熊本から江戸に参勤する時は、熊本より堺まで船で出て、
そこから陸路を取ったそうだが、
さて清正の船が着くと知ると、五畿内中の馬喰(馬商人)たちは、
大阪・伏見で売る馬をすべて、
清正のもとに引き連れて行くほどであった。
清正は馬数寄であるため馬の目利きも大方上手で、
集まった幾多の馬を見て、気に入った馬を10疋も15疋も選びとり、
それらをまとめて幾ら程と値段を決めて一度に買い取った。
そのため個々の馬がいくらほど、と言うことは知らず、
過剰に代金を払ってしまった馬があっても解らない、と言う事だったそうだ。
ある時、伏見において、三人の馬喰が合わせて18疋の馬を清正のもとに引き連れてきた。
清正はこの内9疋を気に入り買い取ったのだが、
一人の馬喰は7疋引き連れてきた内、
6疋を買い取られた。
その時、この馬喰申し上げるは、
「今日、お買い上げいただいた馬たちの中で、私の馬は6つ、
御意に入って買い取っていただきました。
そのため私のもとには1疋残ったのですが、7疋引いてきてお目に懸けた中で、
1疋だけが御意に入らず連れて帰ったとあれば、私も大変外聞が悪いのです。
商いにも忝と言うものがあります。この馬を、忝に差し上げ申します。」
そうして残った馬も清正の厩に入れて帰っていった。
この事は珍しい商いの忝の例であると、当時の京童たちの話題となったそうだ。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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