犬伏の別れ☆ | げむおた街道をゆく

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豊臣秀吉公が御他界された時、その嫡子である秀頼公は幼少であったため、

御遺言に寄って天下に四奉行を定め置かれた。

 

そして東国表に事が起これば家康公鎮め給えと有った。

さて、石田治部少輔(三成)は天下を奪うべき邪念を持っていたが、

家康公を先に滅ぼさねばそれは成り難しと考え、

上杉景勝と申し合わせて景勝に反逆の色を立てさせた。

 

これに対して家康公御父子は、軍勢五万八千にて御発向された。

そして家康公は下野国宇都宮まで御下向され、

秀忠公は同国小山に御陣を据えられた。

この時、真田安房守(昌幸)も家康公に相従い、

下野国佐野の天明(現在の佐野市天明町)まで出馬していた。
 

天明より宇都宮まで上道九里、

宇都宮から小山へは天明の方向に向かって四里という場所であった。
 

ここに於いて、石田治部少輔方より真田へ書状を以てこのように伝えてきた。
『今度景勝反逆の事は、某が申し含めた、家康を討ち取る企てである。

其の方もこれに与し、家康を討ち取るのだ。

さすれば、其の方の本国である信州は申すに及ばず、

甲州も其の方の故主である信玄の国であるから、

この両州に駿州も加えて与えるであろう。』

そう熊野の牛王に誓紙血判して遣わされた。
 

これを見て真田は俄に心変わりをし、家康公を討とうと考え、

幸いにも子息の伊豆守(信之)が家康の御旗本に在ったため急使を遣わし、

『談合すべきことあり、急ぎ天明へ来たれ』と伝えた。
 

そして伊豆守が天明に到着すると、安房守はこのように言った。

「其の方を呼んだのは他でもない、今度の上杉景勝の反逆の事、彼一身の企みではない。

石田治部少輔と牒を合せて、家康を討つという謀計なのだ。

景勝の反逆として家康が関東に向かえば、

その跡より軍兵を起こして家康を討ち取るという。

然ればこの安房守には、景勝と牒を合せて味方すれば、

信甲駿の三州を宛行うとの盟誓の状を石田方より差し越した。

であれば、其の方のため、又子々孫々のためであるから、
其の方が家康を討ち取るのだ!」

これを聞いた伊豆守は、
「最もな仰せであります。ですが其の事は是非に及びません。

何故ならば、家康公はその威儀を見るに、
中々謀にて打てるような人物ではありません。

逆に石田に与すれば、幾程もなく滅びてしまう事明らかです。
家康公に与し給われば、子孫長く永福となるでしょう。」

これに安房守は、
「其の方には分別が無い!どうして三ヶ国を領すると思っているのか。

私には既に余命がない。これは皆、其の方のためではないか!」

そう強く翻意を促したが、伊豆守は頑なに同意しなかった。

安房守は仰天し、立腹して、
「其の方は妻子に心が残っているのか!これは勇士の業ではない!」

と色々の悪口に及んだため、
伊豆守はその座を立ち破り、馬に乗り鞭を揚げて宇都宮に帰り、

家康公にこの趣をありのままに申し上げた。
 

家康公はこれを聞いて、
「伊豆守が忠義の程、山よりも高く海よりも深い。これはそれを忘れまじき証拠である。」
として、差されていた脇差の下緒の先を切って伊豆守に与えた。

 

 

 

戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。

 

 

 

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