ある時、龍若という草履取りが、悪戯を度々したので終に如水は罰を与え、
彼を大黒柱に縛り付けた。
翌朝、如水の側に仕える御伽衆の者たちが、
龍若を許してもらうために詫び言を申し上げようと話し合いをしていたところ、
書状を書いた如水が、こう言ってきた。
「城から一里半ばかり離れたところに相原村という、瓜をよく作る所がある。
そこには代官も置いてある。
この代官に瓜を差し出すようにと申し付けるので、それを龍若が城に持ち帰れ。」
この命により縄を解かれた龍若は程なく相原村より瓜を持ち帰る。
すると如水は龍若を御前に呼び出し、手ずから瓜2つを与え、
「これを喰らえ。」と言った。
御伽衆の者たちこれを見て、
「詫び言を申し上げようと思っていたところに、そうするまでもなく許された!
如水様も何のかんの言って、龍若がいないと不便だったのだろう。
そのお陰でこんなに早く埒が開けた。」
良かった良かった、と喜んだ。が、そこで話は終わらない。
龍若が瓜を食べ終わると如水、彼を再び大黒柱に縛り付けたのだ。
そして「家中の者に使いがある」と言っては再び龍若の縄を解き使いにやって、
戻ってくればまた縛り、
特に用もないのに「居間の掃除をしろ。」と縄を解き、掃除が終わればまた縛り、
1日に1,2度づつは許してはまた縛ると言うことを繰り返し、
終に3日間こんなことをした挙句、ようやく完全に許した。
この事を見聞きした者たちはいずれも可笑しい事だと思い、伽坊主の一人が、
「それにしても珍しい御折檻でございました。
世間にまれな囚人でありましたことよ。」
そう笑って申し上げると如水、
「まあ龍若は徒者だからな。教育のためとは言え、縛ったまま使わないのはわしの損だ。
だからと言って悪戯者のままであっても困るので、折檻はしないといけない。
そうではあるが、縛ったままにしておいたら体に縄が食い込んで、そりゃあ苦しいだろう、
時々休ませて用などもさせて、そんなふうに緩々と折檻したら、普通の折檻より
懲り方も強くなるんだよ。」
と言って、如水もまた大笑いしたという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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