ある時、信長は家臣に向かってこういった。
「わしの言う事なすことに、誰も逆らおうとしないのは、これは面白くない。
少しはずけずけと物を言うすね者でもいれば、ここに連れて来い。」
側近の菅屋長頼と長谷川秀一は、あっちこっち探し回って、
頑固なすね者として有名だと言う、
定一という座頭を見つけ、早速信長の御前に連れて行った。
「そのほうが城下随一のすね者か。遠慮はいらん、早速すねた話など申せ!」
ところが定一はおずおずと、
「すね者などとは出鱈目でございます。
不躾ながらそれは、座頭を間違えたのではないでしょうか?」
信長はがっかりして、
「さては家臣どもがまた、
わしに追従するためそのほうを担ぎ出したかな?」
そうして酒を与えただけで下がらせてしまった。
後日、信長からこのことを叱責された
菅屋と長谷川は、定一のところに文句を言いに行った。
「何ゆえ普段のように振舞わなかったのだ!?
俺達が虚言を申したように思われ、すっかり困ったぞ!」
すると定一は呆れたように、
「家臣であるお二人の前ですが、
信長様というのは薄っぺらな大将ですなあ。
すねろと言われてすねるすね者が、
どこの世界におりますか。
今、甲斐の信玄様と争っておられるようですが、
信玄様のほうが懐の大きな大将ですよ?
よくよくお気を付け、
思いがけなく武運の尽きる事のなさいませんように…。」
すね者らしい嫌味を忘れない定一であった。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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