ある時、大納言・前田利家が、20日ばかり大坂城に詰め、
太閤秀吉よりようやくお暇をいただき、
日暮れの道を伏見へと向かっていた。
この時、利家は大変機嫌が良く、乗り物の輿の両側を開き、
またお供の者たちも全員馬から降り、
色々と物語しながら道を進んだ。
そのうちに森口と牧方の中間くらいに至った頃である。
前の方から騎馬の侍が来た。
年の頃四十ばかり、鹿毛の馬に乗り槍一本持ち、
供の者を4,5人連れて顔には頬被りをしていた。
そんな一団が利家たちとすれ違おうとした。
それを見た利家、突然、
「頬被りはご法度ではないか!あいつを馬から引きずり下ろせ!」
と言い放った。
これに前田家のお供の者たち、すぐさまその頬被りの侍に一斉に飛びかかり、
相手を馬から引きずり下ろした上、頬被りを取り上げた。
頬被りをしていた男はこの突然の乱暴におおいに驚いたが、
相手が大納言・前田利家と知ると何もすることも出来ず、
ただただ迷惑の体であったという。
後で解ったことには、この時の侍は安芸毛利家の家中の者であったそうだ。
伏見に帰った利家からこの事を聞いた近習や家老の面々は、
大いに面白がり、
「殿もまだまだ気持ちがお若いですなあ。」
などと物語したそうである。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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