1596年のある夜のことである。
徳川家康の家臣である青年は、諸大名の家臣同士の寄り合いで、
次のような話を聞いた。
前田利家に仕える侍が、自分の待遇に不満を持ち、
主家を去ろうと考えていることを口にすると、
その場に居合わせた幾人かの人々は、そのようなことはやめた方がいい、と忠告した。
なぜなら前田利家は息子とともに、
茶の湯の席で太閤秀吉の命を奪うことを計画しており、
これがうまくいったのならば、前田利家父子が天下の主になるだろう。
そうなれば、
前田家に仕える彼も大きな領国を与えられるはずだからだ、と語った。
これらの話はすべて冗談の作り話であったが、
徳川家康の家臣である青年は本当のことと信じ込んでしまい、
思慮を失って政庁にかけこんで訴え出てしまった。
取り次ぎの者から話を聞いた秀吉は薄笑いをして、
ただちにこの青年の身柄を、前田利家に引き渡すよう命じた。
前田利家は、なぜそのような嘘で太閤殿下の耳をわずらわせたのか、
と尋ねると、徳川家康に仕える青年は正直に寄り合いの席で聞いたと答えた。
事情を調べた結果、単なる作り話とわかると、青年は足枷をつけられ、
ついには彼の父親とともに連行され、一緒に磔になって処刑されたという。
『戦国ちょっといい話・悪い話まとめ』 より。
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